『日本の農業はこうだ!』と大上段に振りかぶって大仰なことを言うわけではないですが。おそらく日本全国の中産間地域と呼ばれる田舎に行けば、見るからに人口は減ってますし田んぼや畑の生産をしていない農地(耕作放棄地)はそこらじゅうにあるわけです。もちろん岡山県にしたってそう。あまりマクロに『これからの日本農業の再生は・・』的に考えなくても、『この目の前の耕作放棄地どないすんのん』と荒れた農地を目の前にすれば考えてしまうわけです。

 

 国は概ね2つの方針で農業を再生しようとしています。ひとつはプレミアム化。いわゆる高付加価値型でオンリーワンの農産物を作り、アッパーな層がたくさん住んでる首都圏やシンガポール、ドバイなどの海外にも売り込んで販路開拓、利益率の高い農産物を作って産地化して農家は潤って万々歳。傷のついてる農産物は6次産業化で加工品作り、農家の所得を増やします。と国が思い描いているようなプレミアム型農業になれば良いのですが、現実はそんなに簡単にはいかないようです。

 

 そもそも全国の農産物の産地が高付加価値型で単価の高い農産物を作りたがっても国全体の景気や物価があがっているわけではないのですからすべての産地が高付加価値型で売れるわけはありません。 すべての産地が全国トップ目指しているわけですが、全国トップ級のプレミアム商品になるのは産地や自治体が考えているほど簡単なことではないと思います。少量ですが1房17000円の葡萄や1玉3000円の桃を売ってる業者(岡山果物カタログ)が言ってるんですから間違いないです。全国あらゆる産地が『ひとにぎりのプレミアム産地』になることを目指してますが、事はそうそう上手くはいかないですよということです。

 

 もうひとつは大規模化。農地を集積して輸入農産物に負けない規模の農業をはじめる。オランダ型の1ヘクタール以上のトマトハウスや10ヘクタール単位で路地野菜を計画栽培、初期に大量にかかる資金は大企業の出資を受け入れたりクラウドファンディングで全国から出資者を募る。収穫した農産物は全国の量販店に販売して全国制覇を目指します。 これは確かに成功している農家さんも全国に何件もいらっしゃいます。まだまだこれから転換期を迎える農業の次のビジョンでもっとも成功に近いのはこの大規模型の農業かもしれません。 ただ全国の多くの農家さんがこのモデルで成功するのは難しいと思ってます。先ほどのプレミアム型同様に『ひとにぎりの販路を持った大型産地』になることを全国の産地が目指しても、事はそうそううまくは行かないと思います。

 

 つまりプレミアム化も大規模化も共通しているのは頭キレキレだったり特別なセンスがあったり大きな資本力があったり、いわば『頭が良いか金持ち』が成功するモデルになっているように思えます。普通に就農した人が普通に事業化できて普通に生活できる、そんな産業に農業をできないものか。

 

 ここであらためてなぜ普通にIターンやJターンで新規に就農して農業を事業化するのはそんなに難しいかを考えます。ここ最近で言っても農業は5年で約5%の主業農家が離職しているわけですから、事業化するのはやはり難しい職種と言ってもよいと思います。商売はその産業が利益がたくさん出やすくなれば、新規参入組みが増えて競争が激しくなり利益が出にくくなる。そして増えすぎると儲かっていないところから淘汰されていっていずれ儲けの多さと参入企業の数がバランスされる。これがあたりまえだと思います。

 

 ところが農業については違います。本来ならば各産業に従事している人たちはその儲けから生活を支えなければなりませんが、農業に関して言えば全国平均の従事者は平成26年で66.8歳、岡山県では70歳を超えています。 つまり現状は大半の農業という産業を担っているのは年金をもらっている高齢者と言うことになります。子供を育て終わって家のローンも車のローンも払い終わって、そして主たる収入の年金があり、そして農業技術は何十年も蓄積されていてすばらしい農産物が作れる。それが現在の一般的な農家の姿です。

 

 そんななかに農家になる補助金は5年ほどもらえるけど子育ても家のローンもまだまだこれから、農業技術って言ったって農業始めたばっかりです。的な他所の土地から来た新規就農者がうまくいくのはかなり困難です。

 

 たとえば岡山県の隣の広島県にはマツダがありますが、マツダを定年退職したOBが『暇だしお客さんに喜んでほしいから』と自宅の庭でアテンザを作って、地元の直売所で『わしゃぁもう年金もろうとるし、お客さんに喜んでもらえたらそれでえぇから』と品質抜群のアテンザを30万円で売る。しかもそんなOBはひとりじゃなくて、たくさんのOBがたくさんの車を直売所に持ってくる。これが車ではできませんが、困ったことにできてしまうのが農業です。

 

 以前に岡山大学大学院経済学部教授の中村良平先生にこの問題をどうすればよいか話を伺ったところ『若手農家と高齢者の農家が同じ仕事をしているのにイコールフッティングではない。これでは若手農家は絶対に持たない』と言われました。ホントそのとおりだと思います。(ちなみに解決策は『年金もらいながらの農業所得については、その農業所得ぶん年金を減額すること。これで少しは改善する』とのこと、なるほど。)

 

 本来ならばどの産業でも当然あるべき健全な淘汰の仕組み、これが無いのが農業です。そして『若手でも儲かりますよ、プレミアム化か猛烈な規模拡大さえすれば』とほとんど無理難題に近い選択を押し付けられているのが農業です。そんな選択ではなくもっと別の、もっと新しい農業の仕組み『ふつう農業』。

 

 わたしたち有限会社 漂流岡山がいま岡山で取り組んでいるのがこの『ふつう農業』です。